かけす・くらぶ

身近な生き物たちの出会いと「すい臓がん」闘病記

梅の木

ここは人里から離れた放棄水田あと。
段々畑のあとには植栽されたスギ林が薄暗く繁っている。
それが集落と分断し、ここからは民家の影が見えない。



この斜面に梅の木があり、遅い花が咲き出していた。

霧雨のような、細い雨が降っている。
花や蕾が雨に濡れている。






そのむかし、ここに誰かが梅の木を植えた。
「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」
もう誰も切らなくなった梅の木は不恰好に伸びて。
樹皮は苔むして。
それでも春になれば白い花をつけ。
誰に見られることもなく、人知れず、春を告げる。

できることなら、「綺麗ね」「いい匂い」とちやほやされるどこかの梅林の木のひとつにでもなりたかったのだろうか。

私にはどんな梅よりも綺麗に見えるのだが。

いのちは何にでもある。


スターマーク