余命。
「巾のある話は医師として持っています。巾があってどこに当てはまるかは分からないですが…」と前置きしながら余命を告げられた。
「夏は越せれるでしょう。年を越せれるかは五分五分、来年の桜は無理でしょう」。
診察室を出た私はしばらく歩けなかった。
涙が後から後から溢れてくる。
余命なんて、中央値。巾があるのは分かっていても…。
不眠症、腰の痛み、食欲不振、体重減少。
今出ている症状はがん本体からの症状。抗がん剤の副作用ではない。もう抗がん剤は効かないのだから。
私はどのようにして過ごせばいいのか。
元気なうちに野山を歩けるだろうか?
せめてせめて、あそこのササユリが見たい。
せめてせめて、あそこのサシバが見たい。
せめてせめて、渡りのハチクマが見たい。
せめてせめて、孫の顔をずっと見ておきたい。
せめてせめて、かみさんといろんな話をしておきたい。
そして、何よりあなたに会いたい。
会って、ハグしたい。
せめてせめて、ひとこと、「ありがとう」って言いたい。