かけす・くらぶ

身近な生き物たちの出会いと「すい臓がん」闘病記

イスカの死

この記事を載せようと決めるのに1年を費やしました。
あれは1年前、とある山奥で起こった事。

仕事を終え、宿へ向かう峠。道路脇に「赤い鳥」が降りていた。



「あっ、イスカや!」急停止。
車から降りて遠めに様子を伺う。飛ばない。少しずつ近づく。飛ばない。ホッピングで低木に隠れる。どうやら飛べないらしい。
同僚と相談する。「どうしよう、捕獲しようか、このまま見過ごそうか…?」
「飛べなかったらどちみち、やられるかな?」
長い時間考えていたように思われたが、二人の結論は同じだった。「とにかく保護しよう」



イスカは冬鳥または留鳥。♂は赤く、♀は地味な緑黄色。「イスカのはしのくい違い」と言われるようにくちばしが不思議な形をしている。上くちばしと下くちばしが曲がって交差している。右向きとか左向きとかは決まっていないようで、針葉樹の種子を取り出しやすいように進化したのだろうか?「キュッキュッ」と鳴きながら飛んでいるが、関西ではなかなか見られない。

宿に帰って、様子を見たがやはり飛べない。
標識調査をしている同僚が鳥かごとヒマワリの種子を持っていた。とりあえずそこに入れ、種子の皮をむいて小さく刻んで与えた。イスカは食べているように思えた。
知り合いの専門機関に連絡、明日仕事が終わった後、受け渡す約束をする。

その夜は宿を共にした。
夜中、何度も目が覚め、枕もとの鳥かごからかすかな物音が聞こえていた。



翌朝は元気そうだった。餌は減っていないように見えたが。
今日は最終日、助手席に鳥かごを暗くして置いて現場に向かった。



夕方、仕事を終え、車に戻り、ふたを開けた。
イスカは動かず、横たわっていた…。
目の前が真っ白になった。「なんで?嘘やろ?」山中でひとり、大声を出していた。

やっぱりダメだったのか。どうして?
あの時、捕まえなければ生きていたのか?
私は自責の念に苛まれた。

私は鳥が好きだ。けど見て楽しむだけの事。鳥の為に成る事を何もしていない。自分勝手な興味本位だけで鳥とつきあっているのか?
あのとき、捕まえていなければ…。

後日、死体解剖の結果が届いた。
『外傷は見られずまた、頭部や翼等に衝突による骨折や内出血は見られませんでし
た。内臓に出血が見られましたが、少量で直接の死因とは考えにくいです。胃の中は
空で全体に削痩が見られ、大胸筋も非常に量が少なかったことから、臓器不全による
摂食障害から餓死に至ったと考えられます。』

「鳥は飛べなくなったら、遅かれ早かれ、餌食になるよ。それが自然社会さ。」
仲間はそう言って慰める。

でも…。
1年経った今も自問自答を繰り返している。

スターマーク