かけす・くらぶ

身近な生き物たちの出会いと「すい臓がん」闘病記

初めての手術 鼠径ヘルニア(後編)

手術(9月7日):5:30起床。洗面、排便。7:20ベッド上で看護婦さんが浣腸(グリセリン60ml)、直ぐに排便。体温、血圧正常。
9:00過ぎ妻が面会に来る。9:30点滴開始。
10:00前手術室へ。点滴台を引いて歩いて入る。手術着に着替え、手術台に乗り、背中を丸めて腰椎麻酔。チクッと痛い。直ぐに効き出し、両足は宙に浮いているような感覚。膝を曲げたくなって曲げようとするが曲がらない。執刀医が氷片?のようなもので体の各部位を触り、麻酔の効き具合をチェック。
「先生、気分が悪いです」と申告すると酸素吸入と何やら点滴の用意。次第に治まる。麻酔は両手先まで効きだし、痺れるので開いたり、閉じたりする。
その間にもう手術は始まっているらしい。目の上は青いシーツで覆われ、枕元で若い看護婦さんが状況を説明してくれる。痛みはまったくなく、執刀医や看護婦の話し声と手術器具の金属音が聞こえる。話し声はまるで世間話をしているかのように穏やかだ。時々深呼吸して聞く。
ほどなく「ありがとうございました」の声。どうやら終わったみたい。腹部に重みを感じる。洗浄しているようだ。
先生が耳元で「無事終わりました。予定通りです」「ありがとうございました」青いシーツと吸入器が外され、ベッドに移され、エレベータで病室へ。
廊下で妻が待っていた。「お帰り!」「ただいま」の声が少し元気がなかったのは移動中に酔ったせいかもしれない。
部屋に着いてとりあえず鼻から吸入。気分は悪い。「今何時?」「11:30頃」そうか、1時間くらいで終わったんだ。
12:00頃妻帰る。左足指の麻酔が次第に切れ始める。左足で右足を触る。まるで棒を触るようで感覚がない。他人の足みたいだ。13:00過ぎて右足にも感覚が戻り出すと同時に局部がうずき出す。膝を曲げる。13:55看護婦さんが手術着からパジャマに着替えさせてくれる。局部はT字帯(フンドシ)のまま。14:00寝返りが打てた。殆ど麻酔が取れる。
15:00ベッドで尿瓶を使って排尿。上手くできた!16:00から抗生剤の点滴が始まると排尿頻度が早まり、21:30までにほぼ1時間に1回の割合。その度に看護婦さんを呼ばなければいけないのが申し訳ない。




18:00前妻と娘が来る。ベッドを60度傾けて夕食。焼きブリ、ブロッコリー、じゃが芋とベーコン煮、えのき佃煮。食欲はあるが姿勢が窮屈なので疲れてしまい、少し残す。ゼリーの差し入れ。痛み止め飲む。19:00頃帰る。テレビで阪神戦。Kさんも観ているらしく、時々大きな独り言が聞こえてくる。疲れて途中で切ってしまう(勝ったらしい8連勝だ)。
21:30排尿、眠薬飲んで就寝。今夜は眠れるだろうか。




退院(9月8日):3時ごろ目覚め、もんもんとする。寝返りが打ちづらい。5:45気がつくと点滴が終わっていた。血液がチューブの中に逆流している。呼出しボタンを押し、外してもらう。「チューブも血管と同じなので心配ないですよ」と看護婦さん。6:00小用がしたくなり、術後初めてベッドから降りて歩く。痛い!前屈みで一歩ずつゆっくり歩く。古代、ヒトが四つ足から二足歩行になった時、こんな格好だったかもしれないとつまらぬ想像をしてしまう。小用は洋式トイレでする。洗面と歯磨きもなんとかできた。
8:10朝食。ベッドの横のイスに座ってパン2枚、胡瓜とカボチャの細切れ、ヨーグルト。生暖かい食パンにジャムを塗って食べるが、モゴモゴして食べ難い。お茶とレモンウォーターで流し込む。
8:35排便。9:30排便。下痢気味。昨日から空いていた向かいのベッドに患者さんが帰ってこられた。手術後、集中治療室におられたようだ。カーテンを通して見舞いの人との話し声。どうやら腸を切られたような。話し声は元気そう。
10:00主治医回診。きょうの昼過ぎ退院許可が出る。すぐに妻に連絡する。荷物を片付け始める。自力で私服に着替えベッドの上で迎えを待つ。Kさんのカーテンは空いていて、ベッドは空。散歩中なのか。はす向かいのカーテンからは相変わらず痰の詰まった咳が聞こえる。昨日は微熱があったらしい。毎日交代で家族の方が面会に来られていた。
きょうも変わらない風景。カーテンで仕切られた見飽きた風景。そのカーテンの中にはそれぞれの家族があり、それぞれに病気と闘っている。顔も知らない人たちだけど、早く良くなって欲しいと心から思う。みんなが幸せになってほしい。




12:00過ぎ、妻と娘が迎えに来る。荷物は家内に持ってもらい、部屋を出る。ゆっくりゆっくり歩く。看護婦さんから退院証明書、退院療養計画書、予約診療票をもらう。術後2週間くらいは運動を控えめに、シャワーOK、15日外来診察とある。
もう一度部屋に戻り、カーテンをくぐって挨拶をする。「短い間でしたが、お世話になりました。早く良くなってください」Kさんは留守だった。
仮精算を済ませ、娘の車で自宅へ向かう。凸凹道やカーブの時、痛みが走る。車を降りて5階の我が家までの階段を手すりを持ちながらゆっくり上る。玄関扉を開けるとこじろうが尻尾を振って迎えてくれた。「こじろう、ただいま!」
昼食はソーメン。完食。
食後床に着いた枕元にはこじろうが添い寝。やっぱり家がいい。(おわり)

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