タカの渡り
「え-っと20番鉄塔の左上、雲バックにふたつ!」
「どこ?」
「あこ!ふたつでまいまい」
「あーおったあ!遠いなあ」
「その下にもひとつ!」
「はいはい、薄口やな」
これはれっきとした夫婦の会話。あえて注釈すれば、まいまいは旋回中のこと。
薄口とはサシバ、厚口はハチクマ、ノスリ。
空を見ながらこんな会話をしていると、傍から見ればなんと奇異に見えることだろう。
でもタカ渡り観察は止められない。
いったい、この魅力は何なんだろう。
飛べない空への憧れ?
見つける楽しさ?
見分ける楽しさ?
鳥たちへのエール?
とにかくタカはかっこいい!
私は、
雨の中、濡れ鼠になりながらも餌を探していたお父さんを知っている。
やっと探し当てた巣の中でちょこんと小さな頭が揺れていたことを知っている。
渡りの途中で羽を折り、一生飛べなくなったお母さんを知っている。
巣立ち間際に落っこちて、それでも這い上がってきた子を知っている。
「渡り」という宿命を背負ったキミたちを知っている。
望遠鏡でキミの勇姿を追い続けた。
キミの姿が滲んで見えた。