ヤマガラ
最近、爺さんはすこし憂鬱。
「朝になれば、必ずニーニーと来るんやけどなぁ…」
「ことしはとんと見かけん」
それもそのはず、斜め向かいのTさん宅の玄関横のエゴノキが今季は枝がすっかり切られ、実はひとつも付いていません。だから、やってこないのです。
「ヤマガラに会いたいなぁ…」
爺さんは重い腰を上げて山へと向かいます。
「きょうはいい天気じゃのう」
林道にアオバトの羽が散乱しています。
「羽軸が残っているから、四つ足ではないな。やっぱり猛禽か。オオタカ、ノスリ、フクロウ。ハイタカも稀に襲うとワシタカ図鑑にはあるけど、どうしたもんじゃろい」
下尾筒も見つかった。
「何もおらんな。場所替えじゃ」
ノイバラにカマキリの卵のう。
クルマバッタは見事なカモフラージュ。
「おっ、猛禽!」
「なんやトビか、は失礼やな」
木の間越しに猛禽!
「1、2、3、4、5、6、ハイタカか」
ぼーっと待っていると、
「ニーニー」
「来たよ」
「君らはお見合いする時は真正面で見つめ合うのかな?その顔のどの部分で見合いが成立するのかな?ワシにはとんと分からん。みな同じに見える」
何か掴んでほじくっている。何か飛んだ!
何か咥えている。松の実か?
「可愛いのう」
「追いかけんでもいい、来たものを眺めとけばいいんや」
まるで仙人のような独り言。
麓から工場のサイレン。
「どれ、昼にしようか」
爺さんは賞味期限切れのスープカレーヌードルにお湯を注ぐ。
「賞味期限切れが賞味期限切れをすするって、うまいことでけとるなぁ。ワッハッハッハッ」
これは童話でも何でもありません。きょうの実話です。