かけす・くらぶ

身近な生き物たちの出会いと「すい臓がん」闘病記

親父が逝きました

「真岳忠道信士」
これが親父の戒名。この戒名を付けるのに5万円かかった。

お袋が眠るお寺に電話すると、通夜の30分前に若い坊主がやってきた。
戒名は3ランクあるという。
「一番安いので」というと、
「5万円です」
それとは別にお布施、初七日お布施、御膳料、御車料が発生し、
「いくらですか?」
と訊いても金額を言わない。しかたなく葬儀屋と相談。
25万、3万、2万、計30万、戒名代と合わせて35万。これが相場という。
こんな相場、いったい誰が作ったのか?
こんな大金、金がなければ死んでも成仏できないということなのか?

私は反対した。
初対面の、しかも自分の「俗名」も名乗らない坊主になんでこんな大金をやる必要があるのか。親父のこと、なんにも知らないのに、なにが法要だ。

しかし今回は仕方なかった。お袋が先立ち、永代供養されていて、戒名もある。
親父が無いわけにはいかないらしい。
もうこんなこと、これで最後にしよう。

「私の時」は坊主もお寺も要らない。葬儀も墓も不要。
その頃には坊主は失業しているだろうか?

7月に施設から病院に運ばれた。「膿胸肺炎」。右肺に膿が溜まっていた。
酸素吸入、胃ろうの入院生活。会話もままならない。

ある日、看護士さんが手を拭いてくれた。
ありがとう。こんなこと、マニュアルにはないのとちがう?
「お父さん、頑張ってはるね!」



亡くなる前日。脈が数回止まる。
看護士さんが駆けつけ、耳元で名前を叫ぶと直ぐに復帰した。看護士さんはそんなには動揺していない。酸素吸入量を上げる。動揺している私に「こんなことを何回か繰り返しながら次第に…」という。

兄と交代で22時過ぎまでいた。「今夜は大丈夫だろう」と帰宅した。



翌朝2時、亡くなった。私は寝ていた。
駆けつけた私に看護士さんは「今回は復帰することがなかった」と。

「眠りながら死にたい」が口癖だった父。その通りに逝けたね。
なぜあの日帰ってしまったのか?主治医から「付添いで疲れないように」と声を掛けられた事が頭にあったのか?
看取られなかったことをずっとこれから悔やみ続けて生きていくんやろな。

手元に「面会ノート」がある。
生前、面会した時の状況や印象などが細かく書かれてある。



最後のページに私の娘も書いていた。



享年96歳。「わしゃ、百まで生きるぞ!」と豪語していたけど、叶わなかった。
でもそれで良かったのかもしれないね。
お袋と再会して仲良く暮らしてください。

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