かけす・くらぶ

身近な生き物たちの出会いと「すい臓がん」闘病記

ゴマダラチョウの奇跡 前編


 先日、ゴマダラチョウに会った。
私のザックに止まって口吻を伸ばしている。汗でも吸っているのだろうか。
ゴマダラチョウとは不思議な出会いがある。
実際にあった奇跡のような話。ちょっと長くなります。

 10年位前、まだサラリーマンだった私は郊外の会社に勤めていた。昼休みは近くの里山へ出かけ、散策するのが日課だった。
 その日も散策を終え、会社に戻ってくると、知らないあいだにズボンの裾に青虫がひとつ、くっついていた。緑色のつのがある2cm位の青虫。それがチョウの幼虫でオオムラサキゴマダラチョウであることは知っていた。ただそれ以上の知識はその当時なかった。
 午後からの就業が近い。とりあえず構内のサクラの葉の上に置いてやる。仕事中も気になっていた。その日は残業、退社時はまっ暗で探せず。帰宅して図鑑や資料を手当たり次第に読み、食樹はエノキで、幼虫は晩秋に木から降り、落葉の裏で越冬、春に再び木を登り、初夏に蛸化羽化し、夏に産卵すると調べた。「サクラの葉なんか食べへんねんや、けどエノキつてどんな木やろ?」エノキはムクノキとよく似ていて、実がついていれば区別できるのだが、葉っぱだけでは自信がない。「とにかく明日、山に戻してあげよう」
 翌朝、早めに出勤した私は、サクラの葉の上を探した。いない、どの葉っぱにもいない!コンクリートの地面を這いつくばって探すと、いた!まだ生きている!(出勤時に地面に這いつくばっている社員の姿を想像してください) それから大急ぎで山に向かい、エノキらしき木を探したが、分からない。「どうしよう、会社が始まるし・‥」とにかく山道の脇の落葉の上へ置いてやった。
 そんなことがあって以来、私は図鑑や知人などから、オオムラサキゴマダラチョウの幼虫を区別できるようになり、しかもエノキを葉っぱで見分けられるようになっていた。そして山に戻してやった場所から数mの所にエノキがあることも分かった。果たして彼はそこへ辿り着けたのだろうか。
 私をハラハラ、ドキドキさせた一匹の幼虫。それにしても不思議なのは、どうして幼虫が私のズボンなんかにくっついたのだろうか。 後編につづく。

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