かけす・くらぶ

身近な生き物たちの出会いと「すい臓がん」闘病記

ゴマダラチョウの奇跡 後編


 その頃、「萩谷総合公園」が建設中だった。予定地内にはエノキやその他の大木が数多くあり、伐採される運命になっていた。
 ある日、私は予定地に幼虫を探しに行った。重機が入り、すでに伐採、整地が始まっている中、一本のエノキの幹を探すと、一匹の幼虫が見つかった。今まさに幹を降りようとしているところだった。2本のつのと、背中には3対の突起、ゴマダラチョウだ。私はその幼虫を捕まえて、予定地外のエノキの木の下に移してやった。結局、幼虫はその一匹だけだった。
 ひと仕事を終え、田んぼの畦でおにぎりを頬張りながら、目の前のクヌギの紅葉を眺めていると、なぜか突然こみ上げてきた。悔しいのか、悲しいのかよく分からないけど、目の前の紅葉がにじんで見えた。「一生に3回しか泣かない!」私がだ。
 たとえエノキの木が残ったとしても周りの落葉がないと生きてゆけない。たとえ落葉があったとしてもそれを取り囲む下草がないと寒さで凍死。そんな彼らのいのちの絆をいとも簡単に断ち切ってしまう…。
そんなことを考えると私はどうしていいのかわからなくなつてしまう。
 あの日、ズボンにくっついた幼虫はそのことを言いたかったのではないだろうか。私はそんなふうに思ってしまう。

100年前も100年後も私はここにいない。
それは私だけじゃない、私のまわりのすべての生き物もおなじこと。
おなじ時間を共有するすべての生き物のことを少しだけでもわかってあげたい。

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