フリー・トーク・マーケット
はじめに。長文になることをお許しください。
私はこんなにも饒舌だったんだろうか?
しかも初対面の人に。
フリマとはフリーマーケットの略。
でもひょっとして、フリートークマーケットの略かもしれない。
初対面の人と些細な「物」を通して話が弾む。そんな場所かもしれない。
一日目。
初老の男性がオール100円のCDの前にしゃがんで物色をしている。長々と。
しびれを切らして「このイス使ってください」と声をかける。
男性が口を開く。
「きょうは当りやね、良い物がたくさんあるよ」
「そうなんですか、殆どが友人からの頂き物なんで私もよく知らない物ばかりなんです」
「いや、この、ウーファン(伍芳)、沢山ありますね。中国の古筝奏者、興味ありますね」
「ウーファン、ぜんぜん知らないです。はい」
「もう歳が歳なんで、いろんな物事を体験したいんですわ。日本の民謡も好きですね。有名人が謡うのもいいのですが、普通の人の謡うのも味がありますねぇ。あの味は年がいかないと出てこないですよ」
「そういえば私もラジオのゴンチチの番組でウイリーネルソンの『スターダスト』が流れてきて、すごいなこの声と聞き惚れてしまいました。若い頃はなんやこれ?ってパスしていた曲なのに、いまこの歳になってその良さが分かるってこともあるんですね」
「そのとおり、いいこと仰る。年齢によってその曲の良さが分かってくるというかね」
「そうですね、私もウーファン、聴いてみます。」
そんな会話を長々とした。
そして老人はウーファン、フジコヘミングなど6枚のCDを買ってくれた。
なんか、清々しかった。
フリマだから品物の値段は10円単位から。大半が「不用品」の処分市。でもこんな心の滋養も買えられる。
手作り品はなかなか売れない。
一個だけ掛け時計が売れた。真ん中のケヤキの時計。
買ってくれたのは20才の女性。
その女性は…。
我が娘がベビーシッターをしていた頃、預かっていた女の子。
もう15年も前の事。
フェイスブックで交信していたお母さんが立派に成人した娘さんと一緒にやってきてくれたのだ。
娘の作品を沢山買っていただいた。そして、その娘さんが私の時計を気に入って選んでくれたのだ。
嬉しかった。なんかいい話やな。
二日目は曇り空。肌寒い。
私のは殆ど売れない。
娘のは好調。ここで娘の作品を紹介します。
帽子の数々。ぼんぼりだけはかみさん作。
知る人ぞ知る、傑作ロバのぬいぐるみ。
帽子を深めにかぶった若者が古書をしゃがんで見ている。
「Kingyo」の本をペラペラめくる。
「それ、不思議な本でしょ、金魚の絵ばっかりでしょ」
「あ、まあ、日本の金魚は世界的にも有名ですからね」
「デザインに興味ある人には面白そうですけどね」
「となりの『星野道夫』さんってご存知ですか?」
「いえ、勉強不足で…」
「アラスカでクマに襲われた写真家です。その本は私には難しくて、途中で投げ出しました。哲学書みたいです」
「ふーん」
それからいろんな事を話した。
私は本業は鳥の調査をしていて、サラリーマンがいやでいやで、ストレスから職場で倒れたこと。48歳で脱サラしてこの道に進んだこと。隣にいるのは娘だということ。
初対面の人にとって迷惑なことだったかもしれない。
でも彼も話してくれた。
同じようにストレスで死にそうになったこと。今は家庭教師とアルバイトをしながら暮らしていること。まだ独り身だということ。
「谷山浩子、いいですね、私も大好きです」
帰り際、娘に向かって「丈夫なお子さんを産んでください」と。
「ありがとうございます!」
なんかいい話。
フリマも捨てたもんじゃない。
みんないろんな喜びやしがらみを抱えながら暮らしている。
そしてそんな人々を思わず声援したくなる私がいる。
貴重な二日間を過ごした。
またどこかで会えたらいいな。