お袋の玉子焼き
あの時何でもない事が歳月を経てふっと気づく事がある。
それは、もの憂う秋の風のいたずらなのか…。
ローソンの「だし巻き玉子弁当」(360円)を食べていた。
だし巻き玉子を頬張りながら突然、昔お袋の作った玉子焼きを思い出していた。
お袋のは砂糖入りの甘いやつ。一家で暮らしていた当時は玉子焼きというのはそれが普通で、まずいとも美味いともなんとも思わなかった。申し訳ないが。
もう20年前の話。
年の瀬に単身で田舎へ帰ったことがある。
「青春18きっぷ」を使っての9時間の長旅。
物部川河口から初日の出を拝み、森林公園にも足を運んだらしい。
帰る朝、お袋が弁当を作ってくれた。
途中の阿波池田で乗換えを間違えて長い待ち時間ができた。
電車から降り、待合所で弁当を広げた。
傍の猫が物欲しそうにこちらを見つめている。キヨスクのおばちゃんが「ダメよっ」と叱っている。
入っていたのは玉子焼き。
何年ぶりだろう、お袋の玉子焼き。
美味かった!その甘さに涙があふれてきた。
傍の猫に弁当を隠しながら、しかも涙顔も隠しながら頬張った。
一緒に暮らしていた頃は何とも思わなかったのに、今頃美味いと思うなんて。
お袋が逝って5年。
悲しいかな家族の出来事を思い出せるのは今では兄と私の二人だけになってしまった。
こんなふうに、私も年老いてゆくのだろう。
悲しいけれどしかたがない。
私という「かたち」が無くなった時、どれ程の人が私を思い出すのだろう?