かけす・くらぶ

身近な生き物たちの出会いと「すい臓がん」闘病記

逃げないヤマドリ

山に入った。
3日間連続の鳥類調査。
これは私のライフワーク。お金にはならない。
 
初日。
車を林道脇に駐車し、ザックを担いで山道に入ると目の前に彼がいた。
「なんやおまえ!」
驚いたのは彼よりも私のほうだった。
すわっ、逃げる前に写真を!
しかしカメラはザックの底。とっさに撮った携帯画像がこれ。
手ブレの証拠写真。やれやれ。

 
ところが彼は逃げなかった。
再び歩き出した私の横の林内を伴走というか伴歩してくる。
「どないしたん?ついてくるんか?」
私が立ち止まると彼も止まる。そして何やら「グルゥグルゥ」言っている。
歩き出すとまたついてくる。
彼の縄張りに入ってしまったのか。
急登の途中で休憩がてらカメラを出して、今度はしっかり撮った。
羽毛が美しい。

 
その間、回りをうろうろ、地面を突いたり、倒木に登ったり。
「なんや、威嚇してんのか?」

 
とうとう伐採地の鹿除けネットに辿り着いた。
ロープを解いて伐跡内に入り、さらに登る。
さすがに中へは入ってこなかった。
ネット越しに「ほろ打ち」しているのが見えた。

 
 午後、調査を終えてネットの外に出ると、なんと彼がまだいた。
「まだおったんか!」
まるで私の帰りを待っていたかのように。
少し嬉しかったのは事実(私って勝手な性分なのだ)。
下山も同行。ゆっくり降りるとゆっくり。すたすた降りると急ぎ足に。
さて、どこまでついてくるのだろう。
車まで戻った。
彼は林道には出ず、少し手前の林内から様子を伺っている。
荷物を片付けてエンジンをかけ、発進した。
「ついてくるなよ」
どうやら追いかけてはこないらしい。
バックミラーに彼が映らないことを祈りながら山を出た。
 
翌日、翌々日も同じ林内で遭遇した。
同じように付いてきては「グルゥグルゥ」と唸っている。
目の前に来て、尾羽を全開して威嚇したりもする。
ザックを下ろした時、急に近づいてきた。何か貰えるとでも思ったのか。
下山時は両日ともいなかった。
 
3日間、不思議な体験をした。
これはどういうことなのか。
こんなに近くで野鳥を見たのは燕岳のライチョウと靴紐を引っ張ったヒガラ以来だ。
彼はただ単に縄張りを誇示していただけなのだろうか。
果たして生粋の野鳥だろうか。過去に人の手に関わっていたというのはないだろうか。
例えば、「家禽」として飼われていて、何かの理由で逃げ出した、とか。
その後、カメラマンとかが餌付けしていた、とか。
放鳥用飼育施設からの逃げ出しというのも考えられるのか。
むかし、M地域で人懐っこい個体を見たというmodokiさん http://kensaki77.spaces.live.com/ に聞いてみると、その個体は飼われていたらしいと言う。今回の個体もその類なのか。M地域から直線で約15km、もしかして同一個体なのか。
 
ヤマドリ。日本固有種。なのに狩猟鳥。
私の手元にヤマドリの羽がある。
以前、山で拾ったものだ。左右は腹または背の部分か。中は腰の部分か。11枚の羽が重なって、美しい紋様になる。

 
今回は1枚も拾えなかった。
いっそ捕まえて、尾羽の1枚くらい抜いてやってもよかったかな。
 
人を恐れない彼。
彼がこの次出会う人間はどんな得体の人種だろう。
もしそれがハンターならイチコロだろう。
人禍に会わないことを祈らずにはおられない

スターマーク