かけす・くらぶ

身近な生き物たちの出会いと「すい臓がん」闘病記

引越し 前編

三軒となりの空家に三郎が引っ越してきたのは4月に入ってからのことだった。
マツダオート三輪トラックに山積みされた荷物の中に自転車は見当たらなかった。

その夜、竹夫の家の玄関にお土産を持って挨拶に来た母親の横に三郎はいた。
たたきの上でペコッと頭を下げ、ニヤッと笑った。
三郎は竹夫と同じ4年生。

二人が帰ったあとで母さんがお土産を開けた。
見たこともない、羊羹のような四角い棒。白いのと桃色のと。
「これなに?」竹夫は母に聞く。
「ういろうって言うの」
「ふーん」 
そのういろうの美味しかったこと!
 
次の日から三郎は転校生。4年い組。この学校は学年ごとに2クラスしかなく「い組」と「ろ組」だけ。い組は竹夫と同じクラス。喜んだのは竹夫よりもむしろ三郎のほうだったかもしれない。
その日から竹夫と三郎は「親友」つき合いになった。学校でも家でも、勉強も遊びもいつも一緒だった。
外で遊べない雨の日は竹夫の家の軒下にあるツバメの巣を見た。部屋の窓から顔を出して、出たり入ったりする親ツバメとその度に大騒ぎするヒナたちの姿は見飽きることはなかった。
三郎の家の軒下にはやってこなかった。

夏休みはラヂオ体操前の「ゲンジ」捕り(クワガタムシの総称)が日課だった。
先頭を歩くのはいつも竹夫。台場クヌギの樹液にたかるダンゴバチ(オオスズメバチ)は靴を脱いで靴底で打ちのめす。オバケにジュウバコ、ウシ、ホンゲンジ、チョウセン。
ランク付けすれば、1位チョウセン(オオクワガタ)、2位ホンゲンジ(ヒラタクワガタ)、3位ウシ(ノコギリクワガタ)、オバケ(コクワガタ)、4位がジュウバコ(ミヤマクワガタ)か。
チョウセンはなかなか捕れかった。




暑い日は自転車に二人乗りで安威川まで泳ぎに行った。運転はいつも竹夫。
三郎は自転車に乗ったことがない。

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