かけす・くらぶ

身近な生き物たちの出会いと「すい臓がん」闘病記

ミズナラのダイニングテーブル

これは最近、我家にやってきたダイニングテーブルの話です。
長くなりますので、飽きればスルーしてください。

我家のダイニングテーブル。
むかし、「ハンズメッセ」でお気に入りの無垢材を手に入れ、それに脚を付けて仕上げた物。


4人で四方を囲み、小さいながらも愛用してきた。
あれから19年の歳月。何度も塗り直し、未だ現役。


ただ…。さすがに小さい。

いま孫ができ、同居の将来を考えた時、この大きさでは限界がある。
「更新しようか…」
自作も頭をよぎったが、知識も自信もないので却下。

ネットで検索をして「家具団地」まで足を伸ばした。
初めての店。お目当てはダイニングテーブルとイスのセット。木の温もりが感じられる物。相場なんて知らない。


壁に無垢材が立てかけてある。ケヤキ、タモ、クルミ、ホワイトオーク、レッドオーク。外国材には興味がない。

ひとつのナラの無垢材のテーブルに目が止まる。
「北海道産ナラ(ミズナラ)の耳付き一枚板。長さ1,650mm。十分な大きさ。中央部分に枝分かれの痕ような節がある。


「これ、いいなぁ…」
「これはですねぇ」
店長が話し出す。
「とある製材所が店を畳むことになりまして、その倉庫に眠っていた物をうちの工場で仕上げたもので、この一枚しかありません。はい」
「樹齢は300年はゆうにあると思います」
話を聞くとさらに良く見えるから不思議。
値札を見てびっくり。
「こんなすんのん!」はるかに予算オーバー。
「はい、道産のナラ材はなかなか手に入らなくなりまして、ホワイトオークやレッドオークなどのカナダ産が主流でして。はい。
4人掛けですが、6人でも十分すわれます」
「んーん」

ほかのタモ材、クルミ材のテーブルも見てみたが、やはり違った。どこが違う?
樹が植わっていた時の情景が見えてこないのだ。

思案しあぐね、「また来ます。今度はかみさんを連れて」と店を出た。
他に家具店はいろいろあるのだが、結局他の店には寄らずに帰ってきた。たぶん、他のを見ても目に入らないと思ったから。
それほど印象的だったのだ。

ミズナラ。ブナ科コナラ属。ドングリの生る落葉広葉樹。
成熟した森の仕上げに生える「真打ち」的な樹。もっとも進化した構造組織を持つという。
欧米のホワイトオークやレッドオークなどの素直な木目に比べ、板目で材を取ると、力強い精悍な木目が表れ、独特の存在感を見せてくれる。なかでもトラフ(虎斑)と呼ばれるミズナラ特有の模様が美しい。

それから。悩んだ。夢にまで出てきた。
けっして豊かでない我家に果たして本当に必要なのか?
こんな高額をどう工面すればいいのか?
けれど…。
20年いや30年、いやもっと持つだろう、あのテーブル。
私の代はおろか、娘の代、孫の代まで持つかもしれない。
日割り計算すれば…。

毎日あのテーブルを見て過ごせる。
あの樹が生きていた頃のことを想像して過ごせる。
鳥や動物が集い、さえずり、ドングリを食べ。大空に枝を伸ばし。

そういえば、戸隠でもコムクドリが若葉に止まっていたっけ。


ゴジュウカラが幹を這い、餌を探していたっけ。


キバシリだって。


宿の庭にはミズナラとシラカンバの林が広がっていたっけ。
「はあぁーー」


数日後、かみさんと再来店。
もう決めていた。
「これやねん」
「ふーん、ええんちゃう。お父さんが気にいったんやから」
「おれが出すわ」
「うわぁーすごい!」

店オリジナルのイス(ミズナラ)とセットでまけてもらった。
「イスはこれから作りますので、すこし納期をください」
飛騨清見地区は雪深い。工場へは除雪しないと入れないという。

待つこと25日。やっと届く。


どうだ!




この木目ひとつひとつにいのちが宿っている。
彼が生きていた時の光景が目に浮かぶ。
戯れに年輪を数えてみた。10、20、30、50、100、止めた。
樹は切られてからも生きている。

このテーブルは我家の宝物になった。
「明日からしばらくお茶漬けやなぁ…」



因みにお下がりになった初代のテーブル。
捨てずに置いてある。
そのうち掛け時計かなんかに変身するでしょう。



スターマーク