やまおやじ
なるほど、うまく名付けたもんだ。近づくと「加齢臭」までする。
ひと昔前、化石燃料がなかった頃、木は貴重な存在だった。クヌギは薪や炭や椎茸のホダ木に重宝された。
生長した新枝が幹の上部から切られる。数年後枝分かれして生長し、同じ部分からまた切られる。これを繰り返すうちに幹も生長し、切り口は腐朽し、雨水が溜まり、洞となる。これが台場クヌギ。ひとつとして同じ形はない。山の中、異様な形相で睨みを利かす。まるで山の中の頑固親父。
時代は変わった。用のなくなったおやじの枝は伸び放題。山も荒れ放題。でも誰も寄りつかなくなったおやじは格好の生き物たちの棲みかとなった。樹液に集まるカブトムシ、クワガタ、チョウ、ハチ。食樹のアカシジミ。どんぐりを食べるカケス、オシドリ。洞にはフクロウ。アライグマも入るという。
「おい、おやじ!」と呼んでみた。「長生きしろよ!」「……」
喜んでいるのか悲しいのか、人間のおやじの私にはわからない。