かけす・くらぶ

身近な生き物たちの出会いと「すい臓がん」闘病記

ステイホーム

「ステイホーム」のさなか、本を読んだ。

本嫌いな私が珍しいことだ。

ひとつは文庫本「告知」。久坂部羊の医療小説。「悪医」以来2冊目。

もうひとつは新書「きのうのオレンジ」。藤岡陽子。「海のジイ」以来2冊目。f:id:kakeyan60am:20210520161227j:plain

 

「告知」は「あすなろクリニック」を舞台にした、終末医療、看取り、安楽死、死後処置…。看護師の“わたし”と新米医師、院長らが、患者本人と家族、病とその終焉に向き合う、カルテに書かれない6つの物語。

この本はハッピーエンドで終わる物語ではない。「死」を直面にしたリアルなドキュメントなのだ。

久坂部 羊(くさかべ よう、195573-)は、日本の小説家、推理作家、医師。血液型AB型。大阪府堺市生まれ。大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院にて外科および麻酔科を研修。その後大阪府立成人病センターで麻酔科、神戸掖済会病院で一般外科に勤務。サウジアラビアオーストリアパプアニューギニアの在外公館で医務官として勤務し、帰国後は在宅医療に従事。2015年現在は健診センターで非常勤医師として働き、大阪人間科学大学で講師を務めている。

あとがきから:

「この本に書いた連作は、ほぼすべて実話に基づいています。(略)死は不条理で冷厳で、病気は残酷です。何の落ち度もない人に襲いかかり、罪なき人を翻弄し、うろたえさせます。当事者はその中でもがき、苦しみ、精いっぱい生きようと努力します。その姿は哀しく、切なく、ときに感動的です。

私は非力な医師として、何の力にもなれませんでしたが、病気と闘った人々の姿を、何とか残しておきたいと思っていました。」

 

「きのうのオレンジ」

全国の書店員の感想に釣られて買ってしまった。これは物語。つまりフィクション。

33歳の遼賀が受けた胃がん宣告。どうして自分が…。涙が溢れてきて、恐怖で震えが止まらない。その時、郷里の岡山にいる弟の恭平から荷物が届く。入っていたのは、15歳の頃、恭平と山で遭難した時に履いていたオレンジ色の登山靴。それを見た遼賀は思い出す。あの日のおれは、生きるために吹雪の中を進んでいったのだ。逃げ出したいなんて、一度たりとも思わなかった――。

5章の標高1,255m那岐山登山の設定はいささか無理があると思う。いくら登山用車椅子を使っても、現実に可能かどうか。33歳の若い遼賀には可能なんだろうか?71歳の私には到底無理な話。「互いを思いやる気持ちを日々持ち続け」ていれば、遼賀自身が口に出さなかったかもと思う。

藤岡 陽子(ふじおか ようこ、1971721 - )は、日本の小説家看護師2児の母。京都府京都市に生まれる。同志社大学文学部卒業。報知新聞社を経て、タンザニアダルエスサラーム大留学。慈恵看護専門学校卒業。 2017年現在、京都市内の脳外科クリニックに勤務する。

作者のインタビューから。

藤岡 死を受け入れていく過程を横軸とすれば、縦軸には“共有の記憶”というものを書きたいと考えました。“ある日、あのときの出来事がのちの人生において意味を持つ”ということは誰にでもあると思います。どの家族にも共有ファイルがあり、その中に家族としての記憶が保存されている、みたいな感じでしょうか。

――お母さんのセリフで、心に残る言葉がありました。「毎日を丁寧に生きるというのは雑草を抜くことと同じじゃよ」「だからお母さんはこうして毎日雑草を抜いているの」と。とても心に響きました。
藤岡 私もその言葉がすごく好きです。雑草って、こまめにちゃんと抜かないと、気づいたときには庭が雑草に埋めつくされてしまう。そして雑草に埋めつくされていると、雑草が雑草に見えなくなっていく。そうならないように日々、丁寧に手入れをしていくことが大事……。それって、家族とよく似ているな、と。家族の誰かが落ち込んでいるのを見過ごさないとか、誰かが困っているときに手を差し延べてあげるとか、そういう互いを思いやる気持ちを日々持ち続けることが本当に大切だと思うんです。もちろんそれは理想論で、実際にやるのは難しいですけれど、笹本家がそれをずっとやってきたというのが伝われば嬉しいですね。

あまのじゃくな私はついつい思ってしまう。「雑草」という名の植物はないよって。雑草にもちゃんと名前があって、雑草まみれの畑作や稲作方法もあるし。ゲンゲだってドクダミだって美しい花を咲かせる。雑草と決めるのは、人間の勝手です。って。

 

先月の427日、国立がん研究センターは、2008年に全国のがん診療連携拠点病院など240医療機関でがんと診断されたおよそ238000人のデータに基づいて患者の10年生存率をプレス発表した。

10
年生存率は、これまで全国のおよそ20のがん専門病院のデータをもとにしていたが、今回は初めて大規模なデータに基づいて示された。

 

若尾文彦がん対策情報センター長は「10年生存率は、10年以上前に治療した方々の過去のデータで、今の患者に反映されるものではない。医師と治療について話し合う際の参考として利用してもらいたい」と話している。f:id:kakeyan60am:20210520161340j:plain

相変わらず「すい臓がん」は一番下。

すい臓がんを抜粋してみた。こんなのを見せつけられたらため息しか出てこない。f:id:kakeyan60am:20210520161437j:plain

私はたしか、ステージⅢ。10年も生きながらえるつもりはない。

本音を言えば、「3年持てば」と思っていた。現在3年と6か月。

 

いまの私を色にたとえると何色なんだろう?

限りなく透明に近いブルー? 澱んだ流れの沈んだグレイ? 朽ちた葉が重なり合ったセピア色? オレンジ色は浮かばない。

 

「先生、私はあと何年生きられますか?」

いつぞや真剣に訊いたことがあった。

「分かりません。それは誰にも分かりません!」主治医はきっぱりと答えた。

あれから何年過ぎただろう?次の診察時にもう一度訊いてみようか…。

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